東京地方裁判所 昭和23年(ワ)1608号 判決
原告
橋本梅代
訴訟代理人辯護士
上床將
被告
佐野榮一
外五名
訴訟代理人辯護士
森井喜代松
【主文】
被告佐野榮一は原告に對し東京都世田谷區下馬町二丁目十七番地木造瓦葺二階建、三戸建一棟の内中央の一戸(建坪十二坪、二階六坪二合五勺)の南側敷地に附屬する畑地約四坪の引渡をせよ。
被告佐野に對するその余の請求及びその他の被告に對する全請求はこれを棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その一を被告佐野榮一の負擔とし、その余を原告の負擔とする。
この判决は原告勝訴の部分に限り金千円の擔保を供託すると假に執行できる
【事實】
略
【理由】
(一)本件家屋二階の引渡請求について。
原告が被告佐野榮一より本件家屋全部を昭和二十年八月頃賃借し占有していたこと及び訴外森谷重吉が昭和二十二年五月頃より同年六月十九日まで本件二階に居住していたことについては當事者間に爭がない。
被告等は訴外森谷重吉は被告佐野より本件二階を賃借して居住したと陳述するが、證人橋本義行、森谷重吉の證言及び原告本人訊問の結果によれば被告佐野は昭和二十二年十月頃工場再建を理由に原告等居住の本件二階建家屋とこれに隣接する平家建家屋の明渡を請求し、原告その他の借家人との間に交渉が行われ、昭和二十二年二月頃に至り原告等二階建家屋の居住者は立退きを要せず、平家建家屋の居住者のみ退去明渡すことに落着したが、被告小林四名の先代小林初一は平家建家屋の内一戸の賃借人で當時千葉縣下に療養のため轉居しており、森谷重吉がこれに居住し、右初一の家財を保管していたところ、右のように居住家屋を明渡さねばならない事態に立至つたに拘らず、當時轉居先も見當らず且つ同人の妻が妊娠して臨月であるので困つた揚句同年四月上旬頃原告の承諾を得た上同年五月十日頃から他に轉居先を見つけるまで一時本件二階に居住させて貰つた事實が認められる。證人正木茂、森谷まつ、佐野龜雄は、關係者一同が正木方に集つた際、原告、被告佐野及び小林初一の三者間において、原告は被告佐野に本件二階を返還し、被告佐野はこれを小林初一に賃貸した旨、供述するが、右證人等の證言によつても、被告佐野と小林初一間に賃料の協定がなかつたことが認められ、證人橋本義行、熊王富三郞の證言及び原告本人訊問の結果によれば原告は被告佐野から原告及び小林初一あての賃料受領證各一通が發行されていることを知らず且つ原告がこれを知つて直ちに小林初一あての賃料受領證を回收せんとするや森谷重吉及び被告佐野は格別の異議〓くこれに同意した事實及び小林初一の家財は原告のみならず隣家の熊王富三郞方にも預けられ、昭和二十二年六月十九日頃いずれも小林初一によつて引取られている事實が認められ、以上の事實並びに證人橋本義行の證言及び原告本人訊問の結果と對照すると、證人森谷まつ、佐野龜雄、正木茂の各證言は措信できない。右のように森谷重吉は本件二階を原告から引渡されたのであつて、被告佐野から引渡を受けたのではないし森谷が昭和二十二年六月十九日に明渡したときも、これを原告に引渡したのであるから、その後の本件二階の占有權は原告にあることを認めることがきでるのである。
然しながら、被告澤田が本件二階に居住するに至つた經緯は、證人橋本義行の證言及原告本人訊問の結果によると、澤田は昭和二十二年七月初旬原告に對しかねて原告が保管している亡小林初一の荷物の留守番として本件二階に居住させてくれといつてきたので、原告はこれを再三斷つたところ、澤田は亡小林初一の居住していた家屋が空屋になつているから、これが賃借方を交渉する間、二、三日でよいから本件二階に居住させてくれるよう懇請したので、原告は二、三日ならよいと思つてこれを承諾したところ澤田は現在に至るも立退かないでいる事實が認められる。結局原告は被告澤田に騙されて本件二階に同人を居住させたのである。原告は、被告澤田によつて本件二階の占有を侵奪されたから、占有權に基いてこれが回收を請求すると主張するが、占有の侵奪とは占有者の意思に反して所持の全部又は一部を失うことをいうのであつて、詐欺に因る占有の喪失は占有者の意思に反するものではないから(澤田が本件二階に居住することについて原告は二、三日であるにもせよ承諾しているのであるから、從つて澤田が原告の意思に反して右二階を占有したとはいえない)占有の侵奪とはいえないのである。
以上認定の通りであるから原告が本件二階について有する賃借權に基いて被告佐野に對しては債務の履行としてその他の被告に對しては被告佐野に代位して本件二階の明渡を求めるか又は直接自己の賃借權の侵害を理由として本件二階からの立退を請求する場合(物權につき物上請求權として損害賠償及び妨害排除の請求權が認められるのは、その排他性を有する故でなく、その不可侵性に由來するものである以上排他性のない債權についても債權侵害が可能な限度において損害賠償請求權が認められると同じように妨害排除請求權が認められるべきである)は格別、占有侵奪を理由として被告澤田に對し本件二階の引渡を請求するのは失當であり被告佐野及び亡小林初一が被告澤田と共謀した事實の有無は關係なく他の被告に對する請求も容認するわけにいかない。
(二) 本件畑地約四坪の回收請求について
本件畑地約四坪を原告が昭和二十一年十月頃から耕作していたことは被告佐野の認めるところであり、證人橋本義行の證言及び原告本人訊問の結果によれば被告佐野は昭和二十三年三月十五日人を派して右畑地に原告が植えてあつた作物を原告の反對を無視して取除き更に同年四月十五日頃原告が施した柵を取除き爾後同被告において右四坪余の畑地を占有するに至つた事實を認めることができ、右認定に反する證人佐野龜雄、正木茂の證言は信用できない。右認定の通り原告が右土地について賃借權をもつていると否とを問わず被告佐野は原告の意思に反して右畑地約四坪を占有したのであるからこれを原告に引渡す義務がある。
よつて原告の請求は右の限度において理由があるからこれを認容し被告佐野に對するその餘の請求及び他の被告に對する全請求はこれを棄却し訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第八十九條第九十二條、假執行の宣言につき同法第百九十六條を適用して主文の通り判决する。